このレポートは弊社が数年前に、現金輸送車襲撃事件や強奪被害、警送員の受傷事故防止を目的として、平成9年度の現金輸送車襲撃事件のデータを独自に分析し、その分析結果や得られた教訓等を、顧客サービスの一環として配布したものです。
このたび、本レポートは多少古い内容ではありますが、現金輸送業務に関係される方々に多少なりとも参考にしていただきますよう、一部の防犯上の不適切な部分を除き公開することに致しました。
また弊社のセキュリテイに関する取り組みの一端を公開することによって、弊社の製品がこれらの独自の分析データをもとに開発・設計された、実用的で防犯のアイデアに富んだものであることをご理解していただき、販売にも貢献することを期待いたしておりますので、お引き立てのほどよろしくお願いします。
本レポートは、プライベートレポートですので、業務の参考にしていただくこと全く構いませんが、引用、転載、ネット投稿等の行為はお断いたします。 本レポートに関して生じた、いかなる損害についても弊社は一切の責任を負いません。

2012年5月吉日
株式会社セキュリコ

 


詳細は表1参照



1. 犯人像

1,未遂事件が46%もあり、素人とプロ級犯罪者の混在が思料される。
2,単独犯21% 2人組54% 3人組21%と、実行犯は少人数である。 (注1)
3,事件の58%(24件中14件)で負傷者を出した。そのうち3名は銃弾により負傷。
4,検挙率は25%と、意外と低い。


2.凶器

1,拳銃の発射が21%、拳銃らしきもので威嚇が29%、半数が銃などを使用した。 (注2)
2,他は、ハンマー等の鈍器25%、刃物類17%、その他29%(重複含む)


3.輸送形態と被害状況

1,警備会社・・・・・・・・・・・既遂13% 未遂33% 計46%
2,金融機関等の自家搬送・・・・・既遂41% 未遂13% 計54%
※時価・・・自家搬送に比べ警備会社が輸送した方が、襲撃率、既遂(成功)率とも低い


4.犯行の状況

1,襲撃の手口
・殆どの襲撃は待ち伏せ(アンブッシュ)である。 (注3)
・警送員を凶器で威嚇、または最初から危害を加え犯行に及ぶ。
・短時間に犯行を終え直ちに離脱する、いわゆるヒット&アウェイ型である。
・覆面やフルフェイスヘルメットを使用しており犯人の「人着」が掴みづらい。
・手袋を使用し指紋を残さない、遺留品や逃走車両も盗難品が多い。

2,襲撃の場所
・路上・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46%
・敷地内か駐車場内・・・・・・・・・・50%

3,襲撃形態
・積み込み・積み下ろし作業中(金庫室開扉)・・・・33% (注4)
・走行中または停車中(積み下ろし作業外)・・・・・29% (注5)
・下車、徒歩にて搬送中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21% (注6)
・輸送車をハイジャック (未遂含む)・・・・・・・・・・・・8% (注7)
・輸送車が無人の時に金庫室をこじ開けた・・・・・・0% (注8)

4,襲撃時の防衛状況
・警送員の機敏な対応で未遂となった・・・・・・・・・・・38% (注9)
・現金輸送車の警報システムを作動させ撃退・・・・・4% (注10)
・銃を発砲した犯人に警戒棒で反撃した・・・・・・・・・8% (注11)


5.分析から得られた教訓

(注1) 犯行人数
犯人は1人から3人以内が中心。 犯人より輸送側(警送員・立会い者)の人数が多い場合は、未遂に終わるケースが多い。 このことから、現金輸送の受渡しの現場には、できるだけ多くの人員を配置することが犯行の抑制に効果的である。
ただし、銃器を用いた犯行の場合、人数が多くても一か所に固まってしまうと、一丁の銃で全員が束縛されるので、適度な分散化が鉄則である。
拳銃を使用した犯罪の多い米国の例として、現金の受け渡しの現場から少し離れた場所(拳銃の射程距離20m 程度以上離れる)で、全体を見渡せる2階の窓際などから電話器を手元に置いて監視する等の、予防対策を採っている例がある。

(注2) 犯行に用いられた凶器
全犯行の5割が拳銃または拳銃らしきものを使用していた。 ライフル銃や散弾銃は隠し持つのが難しいからか、全く使用されていない。

(注3) 待ち伏せ
防衛する側にとって予測困難な、T(時期)、P(場所)、O(状況)の下に待ち伏せ、少人数で短時間の攻撃、そして予め用意しておいた車両などで速やかに逃走する、ヒット&アウェイの犯行手口が多い。発生が突発的である上に、警察組織が動き始める「レスポンスタイム」以内に手早く犯行を終え逃走する手口逃走する場合が多く現行犯逮捕が難しい。

(注4 ) 積み込み・積み下ろし、金庫室開扉中
受渡しのため停車し、金庫室を開閉しているときに襲撃を受けたケースが多い
一般的な2 名乗車の場合、現金等の積み下ろしには、2 名が一旦下車、1 名が金庫室を開扉・デリバリーの準備、1 名が警戒に当たる。日本の一般的な現金輸送車は、二重扉ではあるものの、予備室の無い単純構造のため、金庫室を開けた時は、フルオープン状態となる。このタイミングを襲撃されると全額を強奪される危険性が高い。 この手口を予防するには、積み込み・積み下ろしを完全な警備下の施設内で行うことが必要である。
従来型の現金輸送車を使用する場合の予防策としては、a 金庫室の開錠時には警戒を特段に密にするほか、b 金庫室の扉を可能な限り短時間で開閉するといった現場の工夫が大切である。
また襲撃を受けた場合、c とっさに金庫室を閉めて(自動ロック)、即座に現場離脱に移るといった教育・訓練が欠かせない。

(注5) 走行中または停車中(積み下ろし作業外・キャビンへ)の攻撃
最初に窓ガラスを破壊して、警送員が怯んだ隙に現金輸送車を強奪しようとする手口であるが、次のステップとしてハイジャックまたは、その場で警送員を凶器等で脅して、金庫室を開けさせるなどの手口に続く。 なお欧米諸国では、現金の受け渡しが完全警備下の施設内で行われているため、現金輸送車の移動中を狙って、交通事故や病気・けが人、ニセ警官や検問所等を装って襲撃するケースが多いそうだ。 そのためほとんどの現金輸送車は装甲化され、更に窓を開けないで会話できる装置が取り付けられている。
銃以外の鈍器や金属バット、エアガン、パチンコ玉の攻撃には、「特殊なセキュリテイ強化フィルム」でキャビンの窓ガラスを補強することで一時的ではあるが、防護・対応できる。

(注6) 下車・徒歩搬送中
下車しての搬送は、車載無線や非常警報装置から離れるため、犯人にとっては犯行がやりやすい。 ただし奪取できる金額は1 か所分のため襲撃発生数は比較的少ない。

(注7) ハイジャック
ハイジャックは未遂を含む2件と、予想以上に少なかった。ハイジャックしてから現金を手にするまでに時間と手間がかかり、警送員との接触も長くなるため、敬遠されたのではないかと思われる。 今後現金輸送車のセキュリテイシステムに、GPS 位置通報システムや、車体内外の映像を撮影・記録する、ドライブレコーダー等が普及するとさらに減少が予測される。

(注8) 輸送車の金庫室をこじ開け
現金輸送車が無人・無警戒のまま放置されることはあり得ないので、通常は金庫室のこじ開けは起こりにくい。 また一般的な手口として、犯人はまず警送員を制圧してから強奪に及ぶケースが多い。
* ただし上記のデータには無いが、退職した元従業員が在職時に無許可で作成しておいた合鍵を使って、昼食・休憩などで警送員が現送車を離れた隙に金庫室を開錠し、積載現金を窃取する事件が多発した。 この手の内部犯行を予防するには、①無人警戒システムを装備 ②金庫室の鍵は、街の鍵屋でコピーできるような低レベルの物を使用しない。 ③鍵などの機械錠の他に、暗証番号やRFID、指紋照合などで制御する電子錠。 などの採用によるセキュリテイのアップグレードが必要である。

(注9) 警送員の機敏な対応
警送員の機敏な対応が功を奏したケースが3割もあり、教育訓練の有効性は高い。
機械装置ばかりに頼らず、より良いハードウエアとそれを使いこなすマンパワー・ソフトウエアーの両立が大切である。

(注10) 警報システムによる犯人撃退
警報システムにより犯人を撃退したケースは少ない。
犯人も先刻承知のことで、警報システムを使えないよう待ち伏せして突然襲ってくる。
特に銃を持った犯人のもとで非常ボタンを押すのは、命と引換の行為となる危険がある。
また、非常ボタンを押せる時は、犯人は逃げた後となったケースも多い。
この種の装置を過信してはならないが、ワイヤレス方式の非常ボタンは効果的である。
襲撃を受けたら抵抗せずに犯人の指示に従い、犯人が逃走に移った時や上手く現場から離脱して遮蔽物に逃げ込むか、射程距離外(拳銃で20~30m以上)まで逃げたらワイヤレス方式の非常ボタンを動作させる。この場合、常日頃からワイヤレスボタンの存在を犯人に悟られないよう秘匿しておく必要がある。

(注11) 銃を発砲した犯人に警戒棒で反撃
銃(ピストル)を発射した犯人に警戒棒で反撃したケースが2件あった。幸いなことに死亡事故に至らず負傷で済んだが、本当の命拾いであった。 この2件のカミカゼ的行動は、銃の脅威を取り上げてこなかった、教育訓練に起因する。
わが国では、豊臣秀吉の刀狩り令以来、一般人が武器を持つのを許さない歴史が現代まで続いている。 更に取り締まりや罰則も厳しいため銃を使った犯罪が少なく国内の治安は良好である。 その反面、国民全般の拳銃等の武器に対する知識や感覚は極端に貧しい。
「日本では法律で禁止しているから、銃など無いはずだ。 だから一般の人や会社は、その脅威を研究したり、それに対する教育訓練など必要はない」とほとんどの日本人が考えている。 「原発は安全ということだから、安全なのだ」と同じパターンである。思考停止現象と言っても過言ではない。
現金輸送業務は、銃弾が飛んでくる可能性が高い職業の一つであるということを、現場の警送員は勿論のこと、警送会社、銀行等の顧客、運輸、警察の当局も含めて冷静に認識すべきである。 少なくとも、防弾ベストやヘルメットを着用させることと、拳銃・散弾銃等の犯罪に使われる可能性のある武器に関して、威力や射程距離等の基本的な知識や実銃とモデルガンの違い、銃を突き付けられた時の基本的な対応方法について、正しい教育と訓練を実施すべきである。


6.現金輸送車襲撃事件を回避するための工夫についての検証

1, 輸送車のコースや時間を不定期に変える
現実的に難しい場合が多い。 待ち伏せを防ぐほどの大幅な時間の変更を日常的に行うとした場合、銀行支店側の業務上の不都合の他、受渡し時の立会人確保が難しくなり、逆に危険性が増すことになる。 また、コース変更については、裏道や人気の少ない道路を避けなければならず、地域によってはトンネルや橋により変更の余地のない場合も多い。
但し不定期、臨時的な輸送、例えばATM の現金補充等には有効である。

2, 輸送車を目立たなくする。
臨時運行については有効と思われるが、銀行支店間輸送のように固定的・定期的な運行には大きな防犯効果は期待できない

3, 逆に輸送車を目立たせる。
欧米の主流で孫子の兵法の「武威を知らしめ 戦わずして勝つ」の方式である。 装甲は当然として襲撃を受けた場合の反撃のために、銃眼(射撃用の小窓)や体当たり反撃用の強化バンパーを標準装備している。銃を使用する犯行が多いため、電子機器よりも防弾ガラスや、厚い鋼鉄製のボディなどハードウエアを重視している傾向がうかがえる。 ・・・・・・・・別項「世界の現金輸送車」参照

4, 到着場所やコースを露払い(銀行支店側で実施 事前検索)
もっともコストが掛からず効果が期待できる対策の一つである。 輸送車と連携し店側人員による事前検索で、周辺の不審な車両(エンジンを掛けたまま周囲を観察している)の警戒や挙動不審者を警戒する。さらにカメラなどを目立つように持たせることで牽制し、犯行を断念させることが期待できる。

5, 建物内等の保安環境の良好な場所で受渡し作業を行う。
受渡し作業を安全な施設内で行えば多くの問題が解決できるが、現実には困難である。

6, 到着場所や受渡し作業場所をTV録画監視する。
監視カメラで、直接的に事件発生を防ぐことは出来ないが、予防効果が期待できる。 しかし、ヘルメット・マスク姿で犯行に及ぶことが多く、映像が犯人の早期逮捕の決定打になるとは限らない。

7, 輸送車に伴走車を付ける。
最も効果的な防犯対策の一つであるが、増加コストの解決が難しい。

8, 輸送車及び輸送員が反撃または犯行を妨害できる車両や装備を備える。

アメリカのように拳銃やショットガンで武装した警備員や、非番の警官が同乗するなどのことが日本で実現するはずもないが、少なくとも装甲車仕様やヨーロッパで普及している予備室仕様やボディに取り付けた回転ドア式受渡口、車載式ATM など工夫の余地は多い。

9, 意識の改革
「被害には遭ったが怪我が無くてよかった」とか「金だけで済んで良かった」といった感覚は間違いです。 盗られたお金が、犯人に贅沢な暮らしを覚えさせ、再び犯行に及ぶこと。 奪った金で、より強力な武器を買う資金や、次の犯行を引き起こす事業費になってしまうこと。
またこれらの犯罪によって警察費用、裁判費用、刑務所維持管理費用等、無益な社会コストが増大し、そのツケは税金として国民に負担させてしまうということを、現場の警送員は勿論のこと、警送会社及び銀行等のお客様にもご理解を求めるべきです。

10, 竹やり精神
拳銃などの銃器を用いた犯行に対する予防や対処については、精神論や警棒の訓練等は全く効果が無いとは言いませんが、70 年前の戦争末期の「竹やり訓練」と同じことです。 銃器に対応するには、相応の装備とそれらの装備を前提とした的確な訓練が必要です。

以 上